効くのは語彙数ではなく「カバー率」
研究が問うのは、抽象的に何語知っているかではなく、目の前のテキストや会話に出てくる単語のうち何%をすでに知っているか——語彙カバー率です。この見方こそが数字を使えるものにします。単語の頻度は極端に偏っており、ごく少数の高頻度語がほとんどの仕事をこなすからです。
Nation(2006)は、最頻出の1,000語族で話し言葉の約80%を占めるとしています。その先の1,000語ごとの見返りは小さくなる一方です。これは朗報でもあり悪い知らせでもあります。最初の2,000語族は生涯で最も割のいい投資であり、カバー率を95%から98%に上げるにはさらに数千語かかるということです。
| 既知の語族数 | カバー率(目安) | 体感 |
|---|---|---|
| 1,000 | 話し言葉の約80% | 簡単な会話の大意はつかめる。5語に1語は未知語 |
| 2,000〜3,000 | 話し言葉の約95% | 会話が成り立つ。抜けは文脈から推測できる |
| 6,000〜7,000 | 話し言葉の約98% | 映画・ポッドキャスト・速い話し方も常時の負荷なし |
| 8,000〜9,000 | 書き言葉の約98% | 小説や新聞を辞書なしで |
| 基本語 約17,000 | ネイティブ域 | 教育を受けた成人(Goulden, Nation & Read, 1990) |
カバー率は Nation(2006)および Adolphs & Schmitt(2003)、ネイティブの推定値は Goulden, Nation & Read(1990)による。英語での測定値で、曲線の形は他言語でも共通しますが、正確な数値は同じではありません。
「1語」とは何を数えているのか
上の数字はすべて語族(word family)であり、語形の数ではありません。語族とは、基本語とその屈折形・規則的な派生語をまとめた単位です。英語なら help, helps, helped, helping, helper, helpful, unhelpful で1語族、7語ではありません。語幹と接辞を知っていれば残りはおおむね予測できるため、こう数えます。
- 3,000語族は3,000語よりはるかに多い。 言語によっては2〜4倍の語形になります。広告の「5,000語をマスター」と研究の数え方が同じ単位であることはまずありません。
- 屈折の多い言語は素の語数を膨らませる。 ロシア語・ポーランド語・フィンランド語・韓国語は1語族が多数の語形に広がります。一定のカバー率に必要な語族数は比較可能でも、遭遇する語形の数はそうではありません。
- 受容語彙と発表語彙は別物。 CEFRやカバー率の数字は見て分かる語彙を測ります。話すときに自分から出せる語彙は必ずそれより少なくなります。
関連:1語族を増やすコストについては単語を覚えるには何回見る必要があるか(英語)。
CEFRの各レベルで語彙数はどれくらいか
CEFR が定めているのは「何ができるか」であって語彙数ではなく、レベルごとの公式な語数は存在しません。あるのは測定結果です。Milton(2010)は各レベルの英語学習者を測定し、それに伴う語彙サイズを報告しました。以下は観測された平均であってばらつきも大きく、到達要件ではありません。
| CEFRレベル | 語族数(測定値) | 一般にできること |
|---|---|---|
| A1 | 約1,500未満 | 定型表現、自己紹介、当面の必要 |
| A2 | 約1,500〜2,500 | 日常のやりとり:買い物、道案内、短い雑談 |
| B1 | 約2,750〜3,250 | なじみのある話題での会話、助けなしの旅行 |
| B2 | 約3,250〜3,750 | 議論と論証、努力すればほとんどのメディア |
| C1 | 約3,750〜4,500 | 学術・専門的な利用、含意の理解 |
| C2 | 約4,500〜5,000+ | ほぼ完全な理解、ニュアンスと文体 |
Milton(2010)、外国語としての英語学習者の受容語彙。測定器具は5,000語帯までしか届かないため C1・C2 は圧縮されています。実際の C2 話者の語彙は表が示せる範囲を超えます。
「理解できる」の基準が95%ではなく98%である理由
95%はほぼ全部に聞こえますが、そうではありません。20語に1語が未知語、小説なら1行に1語程度です。Hu と Nation(2000)は小説テキスト中の未知語の密度を操作してこれを直接検証しました。カバー率80%では、助けなしで十分に理解できた人はほぼ皆無。95%でも少数派にとどまり、98%で初めて大半が自力で到達しました。
その後 Schmitt・Jiang・Grabe(2011)が学術テキストで661名の学習者を測定し、カバー率と理解度の関係は本質的に線形だと示しました。崖もなければ魔法の閾値もありません。カバー率1ポイントごとに理解が比例して増えるだけです。98%は計画のための実用的な目安であって、スイッチではありません。
実務的にはこう読めます。2,000〜3,000語族で会話ができるようになり、その後は1,000語増えるごとに言語が静かになっていく——抜けが減り、推測が減り、疲れが減ります。
3,000語にはどれくらいかかるか
目標が決まれば期間は割り算です。そして決め手はペース、つまり多くの学習計画が見誤るまさにその数字です。読書中に出会った単語は定着まで約8〜12回の遭遇を必要とし、その遭遇は複数日にまたがって分散していなければ残りません。
つまり「1日◯語」とは目にした語数ではなく、復習サイクルを完了した語数のことです。正直な4つのペースで計算すると:
| 1日の新規語数 | 年間 | +1,250語(A2→B1)まで | ゼロから3,000語まで |
|---|---|---|---|
| 1 | 365 | 約3年5か月 | 約8年3か月 |
| 2 | 730 | 約1年8か月 | 約4年1か月 |
| 3 | 1,095 | 約1年2か月 | 約2年9か月 |
| 5 | 1,825 | 約8か月 | 約1年8か月 |
休みゼロ・後退ゼロを前提にした単純な割り算です。そして実際に崩れるのはまさにこの前提です。1日3語を3年続けるのは「きつい1日」ではなく、「思い出して実行する日が1,095日連続する」ということです。
1日数語は
実際どこから生まれるのか
ボトルネックは目標ではなく、いつも継続です。そして継続は意志力より既存の習慣から買うほうが安い。Reviews.org の2026年調査(米国の成人約1,000名)によれば、人は1日に186回スマホを手に取ります。ほとんどの人にとって、これが最大の「繰り返す瞬間」の在庫です。
復習を習慣に紐づける
LearnScreen は選んだアプリ——Instagram、TikTok、X、ゲームなど——を Apple のスクリーンタイム API でブロックします。OS レベルで動くため、VPN や DNS の小細工では回避できません。
開くたびに想起テストになる
アプリの代わりに単語カードが表示されます。答えると一定時間だけアプリが解放されます。これは能動的想起——時間をおいても残る種類の遭遇——であって、眺めるだけの単語リストではありません。
出す単語はスケジュールが選ぶ
ライトナー式の間隔反復スケジュールが表示する単語を決めます。間違えた語はすぐ戻り、覚えた語は間隔が開きます。研究が求める分散が、自分で記録しなくても実現します。
- 18テーマ・1,080語以上の厳選語彙 ——基礎、日常生活、旅行、食べ物、仕事、数字ほか。カバー率の表で最も重い働きをする頻度帯にほぼ対応します。
- 学習できる言語は11 ——英語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、イタリア語、日本語、韓国語、ポーランド語、ブラジルポルトガル語、ロシア語、中国語(普通話)。
- 自分の単語も追加可能 ——訳・発音表記・例文つきで任意の語を登録でき、同じローテーションに入ります。
- オフライン対応・アカウント不要。 インストール後はネットなしでカードもブロックも動作します。登録もメールもパスワードも不要で、iCloud バックアップはあなた自身のプライベート領域を使います。
あわせて読む
- 単語は何回見れば覚えるか — 上の合計に含まれる1語あたりの反復コスト(英語)。
- パッシブ学習 — 「勉強しよう」と決めなくても語彙練習が回る仕組み(英語)。
- マイクロラーニング — 数秒の細切れが長時間の一括学習に勝つ理由(英語)。
- Anki の代替 — デッキを作らず開かずに済む間隔反復(英語)。
- ロック画面での学習 — iPhone で復習が実際に現れる場所(英語)。
- 生産的なスクリーンタイム — 1日186回の解錠を積み上がるものに変える(英語)。
よくある質問
出典
- Nation, I. S. P. (2006). How large a vocabulary is needed for reading and listening? Canadian Modern Language Review, 63(1), 59–82.
- Adolphs, S., & Schmitt, N. (2003). Lexical coverage of spoken discourse. Applied Linguistics, 24(4), 425–438.
- Hu, M., & Nation, P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 13(1), 403–430.
- Schmitt, N., Jiang, X., & Grabe, W. (2011). The percentage of words known in a text and reading comprehension. Modern Language Journal, 95(1), 26–43.
- Goulden, R., Nation, P., & Read, J. (1990). How large can a receptive vocabulary be? Applied Linguistics, 11(4), 341–363.
- Milton, J. (2010). The development of vocabulary breadth across the CEFR levels. EuroSLA Monographs 1, 211–232.
- Reviews.org (2026). Cell Phone Usage Stats. Survey of ~1,000 US adults, fielded Q4 2025. Report
最終確認:2026年7月28日

